会員の皆様方には建築士会活動にご支援をたまわり厚くお礼申しあげます。
さて、昨今の我々を取り巻く話題はたくさんありました。世界的には、テロの頻発、北朝鮮の脅威、トランプ旋風、ラスベガスの銃乱射事件等々いろいろな事が起こっています。建築にかかわる災害を数え上げると、2016年4月の熊本地震に始まり、同10月の鳥取中部地震、同12月には糸魚川での大規模火災、2017年に入ってからも2月にアスクルの巨大倉庫火災、6月にロンドンのタワー火災、今年に入ってからも、1月に札幌市の自立支援施設火災、2月に台湾東部・花蓮地震、などなど建築の安全・安心を脅かす災害が発生しています。
その中でも昨年の6月に起こった英国・ロンドンの高層住宅の火災はテレビ等の映像で公開されて衝撃を受けた方も大勢おられると思います。私もその一人で、「鉄筋コンクリートの建物がこんなにも炎に包まれるなんて」、と絶句しておりました。というのは、昔鉄筋コンクリートのマンションの火災現場に遭遇したことがあり、室内は真っ黒こげでしたが、外壁は窓の周りが黒くなっただけで類焼していなかったことが印象的だったからです。鉄筋コンクリートの建物は耐火構造で火災には強い、というのが建築界の常識です。もちろん各層間の隔離距離とかバルコニーとかの規制はありますが、通常の火災ではびくともしない建築物です。話が長くなりますので結論を先に申し上げますと、この高層住宅は1974年の竣工で火災の1年ほど前に改修で、金属系の断熱被覆材で外装を覆う外断熱工事をしていました。これらの断熱材が燃え広がってあっという間に炎の高層ビルと化して何十人の死者を出したのでした。
住環境を向上させるための改修が、建物にとってもっと大切な耐火性能をなくしてしまったのです。これは明らかな人災です。2009年2月に北京、2010年11月に上海、2015年2月にドバイでも高層建物が同様の外断熱工事により全焼している事例もあります。英国ではこのような高層建物が60棟もあるそうです。日本ではまだこういう事例はないようですが、マンションの改修工事が増えてくるにしたがって無いとも限りません。
何事も、新しいことに挑戦することはやぶさかではありませんが、物事の原理原則、基本を忘れて本末転倒にならないように我々建築を生業とするものは細心の注意を払う必要があると思います。
一方で、この4月からは中古住宅の売買取引の際の重要事項説明書に、インスペクション(建物検査)の有・無を記載が義務付けられます。さらに6月からは民泊新法も施行されます。このようないろいろな状況変化に対応するためにも、我々建築士が力を合わせて安全・安心も含めた建物の質の向上に努力する必要があります。
最後になりましたが、建築士会神戸支部では講習会、見学会、セミナー、耐震診断等々いろいろな事業活動をを通じて建物の質の向上に寄与するべく努力しておりますので、来年度も今まで以上に皆様のご協力のほどよろしくお願い致します。
以上
平成30年4月28日 前川象二郎支部長 挨拶より